大車輪の三輪さくらを支えて成長したシオノギ JDリーグ プレーオフ 女子ソフトボール

名バッテリーとなった三輪さくら投手と田島茉依捕手

トヨタの優勝をベンチで見た三輪さくら

昨季のニトリJDリーグ・ダイヤモンドシリーズ決勝を終えてから、ずっと引っ掛かっていたことがある。私は優勝の歓喜に沸くトヨタベンチの間近にいて、三輪さくらとも言葉を交わせる距離になったのに、「おめでとう」とも「お疲れさま」とも言えなかった。何かしら、かける言葉はなかったのかと―。

準決勝、決勝ともトヨタのマウンドにはメーガン・ファライモがいて、後藤希友へつないだ。三輪はレギュラーシーズンで後藤希の14勝に次ぐ8勝を挙げ、投手陣の柱だったが、後半から加入した米国のエースは、4試合に投げて無失点。ベンチはそのパワーとファイトに期待を懸け、念願の日本一を勝ち取った大勝負のマウンドに、三輪が立つことはなかった。

1人で投げるしかない

シオノギはJDリーグ1季目、2季目と続けて西地区4位だった。1季目は3位に遠かったが、松田光監督を迎えた昨季は差を詰め、2024年こそと思われたところで、9勝の吉井朝香と6勝の千葉咲実が引退した。さらに松田監督が期待して15試合に起用した2年目・堀本優良も続いた。

そこへトヨタから三輪が移籍してきた。4年目の信田沙南と2年目の福田莉花が昨季挙げた勝ち星は福田の1勝だけ。三輪が投げるしかない。男子の日本代表エースだった松田監督は「他のチームは2枚3枚で回している中で、自分の経験からして1人でも投げられるんじゃないかと、ある程度予想していました」というが、過去7年の投球回数は昨季の66回が最多で、1節あたり5回程度。けがでシーズンを通して投げていない年もあった。

持っている力は証明済み。178センチの長身からダイナミックに腕を振り、球速もキレもある7種類の球を駆使する。西地区内の移籍で、相手打者のことも概ね分かっている。

移籍1年目から大車輪の三輪さくら選手

ダントツ19勝、「結構投げられるんだ」

ただ、体力だけでなく、展開や状況の変化を見極めながら1試合を、シーズンを投げ抜く術が必要だった。「トヨタでは短いイニングで自分のボールを投げ切るところがあったけど、今は完投が増えて、松田さんから、相手が何を考えているか、この試合で求められていることは何かと考えなさいと言われたので、そこに集中しました」

球数を多く使うスタイルも見直した。終わってみれば164回3分の1を投げ、JDリーグでは1季目に東地区でカーリー・フーバー(デンソー)が挙げた18勝を上回る19勝(7敗)で独走の最多勝を獲得し、チームをプレーオフに導いた。

「こんなに投げられる自信は全然なかったです。体力にはものすごく自信がなかったので。だから自分でも、結構投げられるんだと思いました。さすがに3連戦3連投はきつかったですけど(笑)」と三輪。松田監督は「打者を見る力がすごく上がって、試合の流れを読む力もついてきた。もっともっと良くなるんじゃないか」と、投げることで引き出された能力を語る。

三輪さくら選手に期待を寄せる松田光監督

抜擢に応えた捕手・田島茉依

三輪を支える捕手も実質的な「新戦力」だった。開幕当初は氏丸陽南だった正捕手に、4月26日の伊予銀行戦から6年目、24歳の田島茉依が抜擢されたのだ。

経験が浅いだけに、初めは「どうしたら打たれないか、勝てるか」と気負いが先立ったが、試合をしながら「どうすれば相手打者が嫌がるか、どうすれば三輪さんが投げ切れるか」と、冷静に相手打者や先の展開を見られるようになったという。時にこうして短い間で見違えるようになる選手がいる。

球種が多彩な投手だけに、選択肢が多いことは迷いと紙一重でもある。「自分の考えを伝えてくれて、私の話も最後まで聞いてくれる。互いに全部話し合ってから、これでいこうと」。手探り同士のバッテリーが、言葉を尽くしたコミュニケーションでコンビをつくっていった。とかく阿吽の呼吸を過信したり、あと一言の詰めが甘かったりするバッテリーには、手本になるだろう。

キャッチャーとしてバッターとして飛躍した田島茉依選手

得点力アップで支えた打撃陣

シオノギは打撃陣も古藤優実、佐竹紫乃らが引退したが、出番が増えた右田雅、水戸川綾音らが成長し、得点は昨季の98から114に増えて西地区2位だった。得失点差がマイナスからプラスに転じ、投打のバランスが取れたのがプレーオフ進出の大きな要因だ。

送りバントが少ないのが松田カラーの一つでもあり、松田監督は「盗塁を絡めて効率よく点が取れた。加藤(愛夢)、氏丸、中村(みなみ)の3人で何とかしろという打線だったのが、脇を固める選手も成長してしっかり仕事をしてくれました」と話す。

三輪も「前半戦は打ってくれて勝てた試合が多かったので、打たれても勝って反省できたことは、みんなに感謝したいです」と振り返った。

まだまだ伸びしろがある右田雅選手

打でチームを牽引!本塁打王となった加藤愛夢選手

シオノギに来てよかった

プレーオフは1回戦で巧者ホンダに0-1で敗れ、日本リーグ時代から25年ぶりでポストシーズンに勝ち残った躍進の1年は終わった。これからチームにプラスしていくべきものは何か。三輪にも野手たちにも他の投手たちにも、1年前からレベルアップした課題が見えているはずだ。

たくさん投げたくて選んだ移籍の道だが、こうして組める捕手がいて、野手の援護があってこそ「奮投」が報われ、次のステップに進める。三輪に「シオノギに来てよかったですか」と聞くと、「はい、よかったです」と人なつこい笑顔が返ってきた。今年は、「お疲れさまでした」と言えた。(若林哲治)

リーグ終盤の骨折でベンチスタートとなった小林美沙紀キャプテン

プレーオフ前に三輪さくら選手がチームメイトにプレゼントしたミニタオル

2024チームシオノギ 合言葉はBooM!

Photo:Yukari Watanabe,NijiiroSoftball