大学生が思い出させてくれた「チーム一丸」 トヨタ連覇の舞台裏 JDリーグ ダイヤモンドシリーズ 女子ソフトボール

開幕18連勝中のトヨタに、連覇の危機が忍び寄っていた。
ニトリJDリーグ2024は11月17日、名古屋市のパロマ瑞穂野球場でダイヤモンドシリーズ決勝が行われ、トヨタ(西地区1位)が日立(東地区1位)を2-1で破って昨季に続き日本一に輝いた。
日本リーグ時代の2010~12年に3連覇して以来の連覇である。

■敵なしと見えた18連勝
レギュラーシーズンは5試合を残して西地区3連覇を決め、ダイヤモンドシリーズもしっかり先制して連勝した。連覇にふさわしい道のりに見える。しかし、その過程では昨季にないピンチを乗り越えていた。
今季のトヨタは4月13日の開幕戦でタカギ北九州を3-0で下してから、6月までの前半戦を18戦全勝で終えた。原動力は後藤希友と昨季後半に加入したメーガン・ファライモを擁する投手陣だった。開幕前、後藤希は三輪さくらがシオノギへ移籍して抜けた不安を口にしていたが、日米の両エースが並ぶマウンドは盤石だった。
前半を終えた時点で後藤希とファライモが8勝ずつ、石堂紗雪が2勝を挙げ、2点以上取られた試合がない。チーム防御は0.45。前半最終節の草津ラウンドで会った馬場幸子監督も「こんなに点を取られないとは」と驚いていた。
打線も、昨季の4番打者バッバ・ニクルスが抜けたとはいえ、けがから復帰した山田柚葵が開幕から出場するなど、攻撃力もリーグ随一と見えた。

■始まっていた投手依存と「慣れ」
しかし、この間に危険な兆候が見え始めていた。7戦目の4月28日、豊田自動織機戦を二回に1点を挙げたまま1-0で勝ったあたりから、こうした試合が増えていく。この試合を含めて前半戦終了までの12試合で1、2点しか取れない試合が8試合あった。
1-0、2-0はソフトボールらしい勝ち方ではあるが、先取点が遅い、先行しても追加点がなかなか取れない、相撲でいう「勝ち味が遅い」。すなわち勝利が見えるのが遅く、ボールが飛ぶ時代には決して喜べない。プロ野球にもあるように、強力投手陣を擁するチームの陥りがちなポケットだった。主将の鎌田優希はこう振り返る。
「正直、そんなに深く考えなくても勝てたというか、もちろん一生懸命やってはいたんですが、いい意味でも悪い意味でも、ちょっと勝ち慣れしちゃっていた部分があって…」

■全日本総合で日体大に初戦敗退
後半戦が始まり、9月7日の初戦でNECプラットフォームズに1-2で敗れ、今季初黒星を喫した。先発の石堂は2失点完投と、試合を壊したわけではない。打線がほぼ毎回、二塁に走者を進めながら六回に1点を取るのがやっとだった。
翌日は日立との東西1位同士の対戦を制したが、次週の全日本総合選手権では1回戦で日本体育大学に0-1で負けた。ソフトボールは番狂わせが起きやすい。一発勝負のトーナメントでもある。ましてどちらに転んでもおかしくないタイブレーク。
これで日体大がトヨタより強いことにはならないと、見る者は分かっているが、トップリーグの覇者にとっては、痛恨以外の何物でもなかった。鎌田は言う。
「その1試合を勝つためにどれだけチームが束になってかかれるか。それが知らず知らず、ちょっとずつ薄れていたのかなと。特に大学生に負けた時、相手の一体感、勝つために全員が同じ方向を向いて戦う姿勢を学びました」
昨今の大学ソフトボール界は強豪校が増え、日体大はインカレで昨年、今年と初戦で敗退している。名門校が屈辱を晴らそうと必死で立ち向かってくる姿に、気づかされた。

■再び「連覇」へ向かって
それまでもトヨタの選手たちは懸命にプレーしていたはずだが、みんな置かれた立場、背負うもの、取り組む課題、好不調のサイクルなどが違う。それぞれが戦いながら、結果的に勝てた試合が続くうち、「連覇」の2文字が少しずつ薄墨色になっていたのだろうか。
サマーブレイクの間、7月のワールドカップに日本代表として出場した後藤希、切石結女、下山絵理には、世界一の自信と収穫の一方、酷暑の中で体の疲労もあったかもしれない。
しかし、そこからトヨタナインはコミュニケーションを深め、「もう一度、目標に向かって同じ方向を向いていこうと」(鎌田)軌道修正を図る。ベンチも打線を組み換え、連覇へ向けてピントを合わせ直した。
そうしたプロセスがなくても、西地区優勝は堅かっただろうが、あのままダイヤモンドシリーズに臨んでいたら、日立、ビックカメラ高崎、ホンダのいずれと当たっても果たして連覇は達成できたろうか。
■生き続ける一昨年の教訓
準決勝のホンダ戦では二回に藤家菜々子のソロ本塁打で先制し、三回には山田の2ランで追加点を挙げ、相手の反撃を2点に留めた。決勝は一回に切石の先制2ランが出て決勝点になった。昨季も準決勝、決勝で挙げた計5点のうち4点は本塁打だ。
一発勝負や短期決戦は守りで決まるといわれるが、私は点取り合戦だと思っている。互いに好投手をつぎ込むのだから、守りを固めるのは大前提であって、その上でいかに相手より1点多く取るか。点取り合戦と言っても打撃戦ではなく1点、2点の取り合いだ。
トヨタは一昨年、JDリーグ初代王者を狙って意気込みながら、準決勝で豊田自動織機に延長八回0-2で敗れている。2点は大平あいの2ランだった。大一番でこそ得点できる力の必要性を思い知らされ、それが昨季の優勝につながった。
好投手が激突する一発勝負で連打は難しいから、本塁打で流れが左右される試合が少なくない。だが、狙って強振すれば打撃の形が崩れやすい。各自が役割を果たし、強くたたける球はたたき、その延長線上で本塁打が出るような打撃ができてこそ。鎌田は「きのう、きょうの試合は一発で決めてくれたけど、シーズンを通して、つないで点を取る力は向上してきたかな」と話す。

■気づく、学ぶ、考える
切石は3番打者の責任も果たす2ランを放ち、「きのうチャンスに打てなくて、後藤選手から『何してんだ』ってお叱りを受けたので、打ててうれしかったです」と笑わせたが、捕手としても両エースをリードしてきた。
特に後藤希はレギュラーシーズン終盤でマウンドを離れた時期があり、ダイヤモンドシリーズもベストとは見えなかった。それでも切石は「ワールドカップでは逃げに入ったりしたので、今回は攻めるところは攻めようと」臨んだという。「その結果、準決勝ではヒットを何本も打たれたり、きょうも満塁のピンチがあったりしたけど、後藤がワンギア上げて投げてくれました」
決勝では1番打者の藤森捺未を封じた。今季、打率4割7分6厘で東地区首位打者になった藤森だが、東地区で安打を打たれていないチームがあり、そうしたデータも生かしたのだろう。結果的に与えた2四球も、馬場監督は「長打もあるバッターだから」と織り込み済みで、「しっかり抑えてくれました」とバッテリーをたたえた。
戦力も環境も、確かにトヨタは他チームがうらやむ水準にある。だが、今季の優勝は多くのソフトボーラーにできることを示した。
一大事になる前に気づくこと、どの相手からも学ぶこと、そこからみんなで考えること―。そしてそれをトヨタに気づかせるのが、本来は西地区の他チームであってほしかったとも思う。(若林哲治)



Photo:Yukari Watanabe,NijiiroSoftball
