ワールドカップ制覇からLAへ(上) 野手陣に見えた希望の青写真 女子ソフトボールW杯2024inイタリア
パリ五輪の開幕が迫る中で、女子ソフトボール界はもう2028年ロサンゼルス五輪へ向けた戦いが始まっている。7月15~20日、イタリアのカスティオン・ディストラーダで行われた女子ワールドカップ(W杯)ファイナルステージで、日本が14年以来3大会ぶり4度目の優勝を果たした。決勝はライバル米国を6-1で破る会心の勝利。優勝を引き寄せた野手陣にチームづくりの青写真と光明が見えた半面、投手陣はまだ上野由岐子(ビックカメラ高崎)に頼っている。イタリアからロスへ、見えてきたものを野手編と投手編に分けて探ってみた。
コンパクトな打撃に活路
宇津木麗華監督は技術・戦術上の勝因の一つに、打撃の修正を挙げた。直前の日米対抗では第1戦で左の変化球投手ケリー・マクスウェルを打ちあぐんだ反省から、コンパクトな打撃を意識して3連勝したが、W杯でもまた大振りになりかけた。
1次ラウンド2連勝で迎えた最後のオランダ戦では、一回から三振とフライアウトを重ねるうち、三回に3点を先取された。その後も得点機を生かせず、足をすくわれそうな展開だったが、六回に石川恭子(トヨタ)と塚本蛍(ホンダ)の連続バント安打から一気に追いつき、七回にも打球を転がしてサヨナラ勝ちした。宇津木監督は「(試合中)みんなに足を使いましょうと言って、最後に分かってくれた」と振り返った。
だが、翌日のスーパーラウンド初戦で米国のメーガン・ファライモ(トヨタ)に3安打完封を食らうと、試合後にグラウンドを借り、宇津木監督がコンパクトな打撃を教えながら打ち込んだという。
19日にカナダを下して20日の決勝は米国との再戦。一回に1点を先制されたが、マクスウェルと2番手のファライモも攻略し、二回に2点、四回に一挙4点を挙げる。6点とも単打に盗塁を絡め、相手のミスも逃さずに奪った。
主将で首位打者、MVP級の活躍だった石川
大会を通し、日本の攻撃を象徴していたのが石川だ。6試合全てで安打を放ち、20打数12安打5打点をマークし打率6割、出塁率6割1分9厘、4盗塁はいずれも出場選手のトップだった。目の覚めるようなクリーンヒットや芸術的な巧打ではないが、過不足ないスイングでしっかり振った打球が、ことごとく安打コースへ飛んだ。
今季から主将の重責も担う。「チームとしてうまくいかないことがあったり、個人的にうまくいかない選手もいたりしたので、声をどうかけていいか、迷い悩みながらも、私が今できることは何か、毎日毎日自分に問いかけながら」の好成績は、MVP級だった。
下山絵理(トヨタ)も「新4番」の働きをした。長距離打者だが、もともとコンパクトに鋭くたたく打撃ができる。日米対抗に続いてセンター返しを基本にした打撃が光った。
他の選手の打球も、よく内野手の脇や間を抜け、外野手の前に落ちた。第2戦から当たりが止まっていた坂本結愛(戸田中央)が決勝の二回に打った中前打も、打撃の状態の中で何とかしたい気持ちが、同点につながった。
飛んだコースの良し悪しは勝負につきものだが、これだけ多いと運・不運だけではない。打線の意思統一が生んだ泥臭い攻撃は、相手に与えるストレスも大きかっただろう。
そうして出た走者が、塁上を走り回った。チーム盗塁11は次に多いプエルトリコの4を引き離し、8チームの中でずば抜けていた。
高い潜在能力と貪欲な姿勢
もちろん一発が必要な試合もあり、下山をはじめ中川彩音(SGホールディングス)、工藤環奈(ビックカメラ高崎)ら長打力が持ち味の選手が何人もいる。そのチームでこの戦い方ができた。宇津木監督は「これがだめならこっちをやる。アメリカがこうしてきたら我々はこう返す。そういう変化ができるチーム」「正直、まだ東京五輪のチームまでいかないけど、まだ50%ぐらいの力しか出していない。いろんな技術でもっと勝負できる」と、若い野手たちの潜在能力を高く評価する。
米国も過渡期のチームだ。宇津木監督は「アメリカは決勝の前まであまり苦労していなかった。(決勝でも)先に1点取って、もう勝てると思ったでしょう。選手には、アメリカと試合をする時は常に笑顔でやりなさいと言っている。若い選手だから、笑顔を出すことでアメリカの自信を崩せる可能性もあるので。それもよかったのでは」と、メンタルの駆け引きも明かした。
そして、若い日本が宇津木監督を驚かせたのは「みんな教えて、教えてと言ってくる」という貪欲さだった。
塚本は今季のニトリJDリーグで、持ち前の本塁打が出ず打率も低かった。「相手が一番喜ぶ三振を減らそうと」意識してミートが弱くなっていたが、宇津木監督の助言も聞きながら打撃改造を続けた。強い打球が野手の間を抜くようになり、17打数8安打3打点、石川に次ぐ打率4割7分1厘をマークした。
切石は新・正捕手としての重労働を担いながら、打撃でも14打数6安打2打点と、下位打線で大きな働きをした。代表合宿以来、「手首を返すのが早いから、フォロースルーを大きくするように言われている」という。いわゆる「前が大きい」フォームを意識して、打球の推進力がついた。
唐牛彩名(日立)、藤本麗(ビックカメラ高崎)、須藤志歩(豊田自動織機)も、新生日本を体現するように、はつらつとプレーした。もう少し打球に力がつけば、さらに出塁率が上がって足が生きる。
ロスを目指す選手たちへ
そんな選手たちの背中を押しているのは、言うまでもなく4年後の大舞台に立ちたい気持ちだ。今大会でも、代表として世界一決戦に出る重圧はあったが、もっとうまくなりたい、五輪で金メダルと取りたいとの思いが勝り、表情にも出ているように見えた。
守備では、二遊間の川畑瞳(デンソー)と石川が優勝チームにふさわしい守備で投手をもり立て、坂本結は三塁手に必要な身体能力を見せた。外野も足の速い選手が多くて投手を助けている。チームとしての守備の熟練はこれから。
過去もそうだったように、まだ入れ替わりやコンバートを経て五輪チームができていく。W杯メンバーだけでなく、ここにいない選手たちが28年を目指すうえでも、どんなチームになりそうか、どんな選手が求められるのか、道筋を示せたことも大きな収穫だった。
(記・若林哲治)