日本3連勝、「本気のアメリカ」に挑むチームの軸は見えたか 日米対抗ソフトボール2024

日米対抗ソフトボール2024は8日、横浜スタジアムで第3戦が行われ、日本が8-1で六回裏二死コールド勝ちした。若手中心の米国相手とはいえ3連勝で終えた今年の日米対抗。15日からのワールドカップ(W杯)ファイナル(イタリア)で、米国トップや侮れない他国との戦いに向け、チームの軸と課題が見えてきた。
◇長打あり「足攻」あり連打あり
一回、日本は先発・後藤希友(トヨタ)が3人で終わらせた後、すぐに先制点を奪った。2番・石川恭子(トヨタ)の中前打と捕逸で1死二塁。続く工藤環奈(ビックカメラ高崎)が右中間三塁打を放ち、今大会4打点目を挙げる。
4番は下山絵理(トヨタ)。3-1からの5球目、低めの球を鋭くたたいた打球は、中堅手のグラブのわずか上をかすめ、フェンスの向こうに弾む2ランとなった。第2戦はベンチ外だったので、第1戦の七回にサヨナラ勝ちへつながる中前打を放ったのに続くセンター返し。「速い投手の時はコンパクトな打撃を意識している」という。
一塁守備でもライナーを2本好捕し、第1戦に続いて投手を助けた。「自分の守備範囲に来た球は全部しっかり止めたいと思っていました」と下山。
四回には唐牛彩名(日立)の左前打を足場に、相手の暴投などで1点を加える。六回にも唐牛の安打と盗塁から中川彩音(豊田自動織機)、石川、下山の長短打で2点を奪うと、集中力の薄れた米国から連続四球、失策でさらに2点を重ね、コールド勝ちした。



◇坂本実もピンチしのぐ
投手陣は後藤が三回まで無安打に封じた後、四回に坂本実桜(日立)が登板した。代表初登板となった第2戦では、先発して三回1死まで4安打3死球5失点の苦い登板に終わっており、何とか良い感触をつかんでW杯に臨みたい。注目のマウンドになった。
当たっている先頭のスカイラー・ウォーレスに初球を痛打され、送られて1死二塁。反撃機を与えてクリーンアップを迎える。踏ん張りどころだ。
ここでバックがもり立てた。エリン・コッフォルのハーフライナーを二塁手の川畑瞳(デンソー)が横っ飛びでつかむ。センターから日立の同期、唐牛が「ミオ!ミオ!」と掛ける声が聞こえる。日立の地元・神奈川とあってスタンドからも祈るような声援を受けながら、4番のケンジー・ハンセンを二飛に仕留め、坂本らしい笑みがこぼれた。この日は、左足を開き気味に踏み込み、腕が遅れて出る独特の球も決まり、打者のタイミングをずらしていた。
五回は三輪さくら(シオノギ)が内野安打1本に抑え、第1戦に続いて安定感のある投球を見せると、六回からは上野由岐子(ビックカメラ高崎)が今大会初めてのマウンドへ上る。1死からウォーレスに強烈な本塁打を打たれ、続く打者にも粘られたが、久々の国際試合を楽しむように根比べを制した。終わってみれば、米国打線を4投手で6回3安打1失点に封じた。

◇見えてきたセンターラインと打線の中軸
日米対抗3連勝は18年以来、新型コロナウイルスによる中断を挟んで4大会ぶり。昨年は11‐12、6-1、1-0の2勝1敗だった。勝ち越しはしたが、上野は「相手が大学生中心だと分かっていて、もっと圧倒的な強さを見せつけてもおかしくない。そういうプライドと向上心を持って取り組んで」と冷静に見ていた。
今大会を上野はどう見たか。「速い球に対しては日本の若い選手は負けていない手応えを感じたし、同世代と戦う中で3試合勝てたのは大きな自信にもつながるんじゃないかな。ただもう一つレベル上がったアメリカを相手にどういう戦いができるか」
宇津木麗華監督は大会前、第3戦では何らかの形が見えるようにしたいと話した。まだ成長途上とはいえ後藤というエースがいる投手陣に対し、野手は柱が定まっていなかったが、この3試合で設計図が見えてきた。
今はあくまでW杯のメンバーから名前を挙げると、守りの軸となるセンターラインは切石結女(トヨタ)、川畑、石川、唐牛。宇津木監督は二塁を信頼する川畑で固定し、遊撃は第1、3戦で石川、第2戦で工藤を使い、工藤は第3戦に三塁で起用した。
ハイレベルな連係はまだこれからだが、個々のプレーなら石川はこの日も打球のコースに素早く入り、人工芝のバウンドにぴったり合わせて際どい打球もアウトにした。
打線は中軸を打った工藤、下山、塚本蛍(ホンダ)がいずれも4安打をマークし、期待通り打点を挙げた。今大会はあまり当たらなかった坂本結愛(戸田中央)がここに加われば、得点源ができてくる。
◇もっと足を生かすために
その前後をつなぐ打者では、唐牛が光った。代表初選出の昨年、宇津木監督は若手の中でただ1人、3試合にフル出場させて適性を見ており、今大会も第2、第3戦でフル出場し7打数4安打2盗塁1犠打。第3戦では、第2戦ほどタイミングが合わない打者が多い中で、しっかりミートして3打席連続安打を放ち、よく走った。宇津木監督は、一見すると線が細くてもいい仕事をしそうな選手をよく見ている。東京五輪代表の渥美万奈がそうだった。
その唐牛や藤本麗(ビックカメラ高崎)、石川らの足を使った攻撃も目立った。3試合で13盗塁。バッテリーミスや外野手のわずかな遅れを見逃さず、迷いなく次の塁を狙った。
ただ、バントやスラップショットなどがなかなか前に転がらず、小技には大きな課題を残した。宇津木監督は「まだ前のチームほど練習できていない。送るところはちゃんと送らなければ」という。この日、3点リードの二回1死一塁で切石に送りバントを命じたのも、試合展開より課題を考えてのことだった。
小技が日本のお家芸といわれたのはずっと前のこと。東京五輪のチームでさえ2018年世界選手権千葉大会当時、宇津木監督が「今じゃ小技もアメリカの方がうまい」と嘆いた。
山田恵里(現日本代表コーチ)のような万能選手や内藤実穂(ビックカメラ高崎)のような小技の名手もいたが、多くの選手は外国人投手の球を転がせるレベルになかった。自チームで小技をする機会が少なく、代表になるまでスラップという打ち方があるのを知らなかった選手もいた。
技術と経験が必要なので、W杯には間に合わなくとも、今のチームなら、小技が決まればもっと足が生きる。そう考えれば地味な練習の目的意識も高まるだろう。

◇W杯へ4年後へ、カギ握る切石
そして肝心のバッテリーについて、上野はどう見たか。
「もっともっと切石の経験が必要かなと。各チームのエース級を限られた時間で生かすのは難しいけど、彼女がもっと話をして、深く入り込んでいかなければ。これは時間をかけないといけない。我妻(悠香)も初めからできていたわけじゃないので、4年後に向けて彼女の成長が大きなカギを握るんじゃないのかな」
宇津木監督も坂本、上野と切石のテンポがまだ合っていないという。特に坂本については「日立の捕手は早くて、サインが出たらポンと投げるのが坂本のリズム」。この修正には実戦の積み重ねが必要で、切石も一度に大きくは変えられないので、この日は若干早く動くよう指示したという。
3試合全てにマスクをかぶった切石は、日本選手の中で最も疲れただろうが、上野が言う通り、我妻は宇津木監督や捕手出身の山路典子コーチ(太陽誘電監督)から足掛け5年も鍛えられた。東京五輪の前年くらいになって「やっと直接ほめてもらえるようになりました」と笑っていたものだ。
W杯では、後藤と昨年までトヨタで切石と組んでいた三輪を中心にして、上野が控える形だろう。そこに坂本が大会で投げながら切石とのコンビや外国人打者への対応をつかんでいきたい。
米国以外のチームの力も忘れてはならない。東京五輪では日本も米国も1次リーグでタイブレークの末に薄氷を踏んで勝った試合がある。負けていたら決勝に進めなかったかもしれない。足をすくわれないために、第1戦で打線の修正が遅れたことも課題として残った。
10日にはイタリアへ出発する。上野は「4年後に向けてこのメンバーでどう戦えるのか試される大会だと思う。本気のアメリカはもっともっと強いことを肌で感じられることが大事かな。もちろん結果を求められる立場なので、結果を出せるように」と大会の意味を語った。(記:若林哲治)

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