ワールドカップ制覇からLAへ(下) 上野由岐子の健在が引き立った投手陣 女子ソフトボールW杯2024inイタリア

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(上)「野手陣に見えた希望の青写真」から続く

後藤に試練を与えた宇津木監督

一方、投手陣はMVPにも輝いた上野由岐子(ビックカメラ高崎)の健在ぶりが引き立つ大会になった。宇津木麗華監督は、今大会でエース後藤希友(トヨタ)に求めたものと評価をこう話す。

「今回は後藤を優先的に出していくのが狙いで、後藤を支えるのが上野であって周りであって、それを後藤がたくさん投げる中で分かってほしいと思った。東京五輪の時はわずかなポイントで出しただけなので、今回は苦しい経験をしたと思う。今後、上野みたいなピッチャーに成長するのは相当苦しいと思います」

その通り、先発は5試合が後藤で1試合は三輪さくら(シオノギ)。投球回数も後藤が21回3分の2、三輪と坂本実桜(日立)がそれぞれ4回3分の1、上野は9回3分の2だった。

終盤に逆転したオランダ戦では、後藤が三回に安打と四球で無死一、二塁としたところで三輪につないだが、犠打と3連打で3点を失い、早々と上野の救援を仰いだ。

オランダの打者は後藤の速い球にも強そうで、強振してきた。1回に2安打され、警戒したのか二回に2四球。宇津木監督が危険を察知した継投だった。

当初は、上野が短いイニングを締めて翌日からのスーパーラウンドに備えるプランだった。三回無死では準備が間に合わず三輪を挟んだのが実情で、三輪にとっても急だったかもしれない。不運な安打もあったが、相手の勢いを止められなかった。

5/6試合に先発した後藤希友投手
第2戦プエルトリコ戦で先発し勝利投手となった三輪さくら投手

5点リードで五回から上野

翌18日は米国に0-2で敗れた。後藤は五回に2長短打で2点を失った。きっかけは先頭打者ジョセリン・アロへの死球。打ち取りやすい打者を歩かせたことが敗戦につながった。

決勝は四回まで1失点でしのいだが、今度はアロで助かった。一回、1点を失ってなお1死満塁で二塁手へのハーフライナー。三回2死二、三塁では後藤のグラブをかすめた打球を石川がさばいて遊ゴロとなったが、足の速い打者なら内野安打で追加点が入っていた。

5点リードの状況で、宇津木監督は五回から上野をマウンドへ送った。後藤を引っ張らず、三輪や坂本実も挟まず…上野投入にこめたものは、作戦というよりメッセージだったのではないか。

ピンチの場面でも生き生きとプレーする上野由岐子投手

「いろんなボールを投げられるように」

後藤は変化球のように動くストレートとチェンジアップの組み立てで投げる。パワーのある強打者にチェンジアップの連投が禁物となると、次の球はストレートでコースと高低を狙うしかないから、ボールが先行したり粘られたりすると厳しくなる。

新たな球種の必要性を指摘されて久しい。宇津木監督はポップフライを打たせる低いライズボールの習得を望むが、一向に気配がない。それでも国内では勝てるし、最近は本人に聞いてもあいまいな答えが返ってくるので、私も昨年のニトリJDリーグ開幕前に聞いたのが最後になっている。

後藤自身は帰国記者会見でも「今の私の実力がどこまで世界に通用するか、しっかり感じていこうと思って臨みました。良かった点、悪かった点、28年に向けて何が足りないのか、何を強化したらもっとプラスになるか、と改めて感じることができた」と話し、具体的なことは語らなかった。

帰国記者会見時の後藤希友投手

変化球の習得は簡単ではない。五輪の決勝で思うところへ投げるには、威力、制球力、分かりにくさなど身につけるべきものが多い。配球の選択肢が増えれば、相手を迷わせる代わりに自分が迷うこともある。しかし、だからこそ上野の向上心と経験の積み重ねは、今も続いているのだと思う。

宇津木監督は「後藤というエース投手が、いろんなボールを投げられるようにしていかなければならないと、私自身が強く感じました」と力を込めた。28年五輪だけでなく、その先の投手としての歩みも大きく左右するだけに、今大会が今後の後藤にどんな変化をもたらすか。

三輪、坂本実、そして切石の第一歩

三輪と坂本実は、ようやく世界大会で一歩をしるした。三輪は22年の代表で海外遠征では投げたが、けがで日米対抗に投げられなかった。坂本実は22、23年と体調不良で代表候補を辞退している。ともに十分な資質と持ち味がある2人が、これからどれだけ経験を積めるかが重要だろう。

第2戦プエルトリコ戦で4回より登板した坂本実桜投手

リードする捕手は、切石が独り立ちを始めた。宇津木監督や上野から、海外の打者と日本の打者の違いを仕込まれ、「自分が(試合で)座ってみて、やっぱり全然スイングが違うなと感じて新しい発見があったりしました」という。けがのあり得るポジションだけに、炭谷遥香(ビックカメラ高崎)らに切石を脅かすくらいの成長も望まれる。

新生JAPANの正捕手として成長した切石結女捕手

米国投手陣も、今大会に限ってはメーガン・ファライモ(トヨタ)が打たれると苦しかった。ケリー・マクスウェルは日米対抗前のロースターに名前がなく、W杯前に加わったようだ。日米対抗第1戦の好投を買われた先発だと思われるが、決勝では対策した日本につかまった。日米とも、イタリアに来なかった選手を含めて投手陣の整備が重要になる。

特に日本は、今大会を見る限り、上野の動向が占める比重が大きくなった。決勝の2日後に42歳になった上野は「1年でも長くプレーできたらいいなと思いますが、個人的な思いだけでなく、周りのソフトボーラーや応援に来てくれる方々も同じように期待してくれていることが、すごく伝わってくれる大会で、評価もしてもらえたことがうれしい」と話し、自身と28年の関係には言及しなかった。言いようがないのはもっともだ。

7/22に42歳の誕生日を迎えた上野由岐子投手

この優勝を強化に生かせるか

「4年後」と言うが、東京五輪と違って日本には開催国出場枠がないから、次回W杯(26年グループステージ、27年ファイナルステージ)までに相当程度の段階までチームをつくる必要がある。その頃には、今大会以上にヨーロッパ勢などの難敵が増えているだろう。

東京五輪の後、JDリーグができて国内試合期間が長くなり、代表合宿が短くなってジャパンカップも行われていない。JDリーグとの両立、「オール日本」体制での選手強化、そのための資金調達、国内人気の再燃等々…山積みする課題を克服のためにこの優勝を最大限、生かすことができるか。日本ソフトボール協会の責任も重い。

(記・若林哲治

大会結果はこちら!(虹トピ)

帰国後記者会見動画はこちら!(虹ちゃん)