日本先勝、攻守に見せた「何とかする」力 女子ソフトボール日米対抗2024
今回、元時事通信社の若林哲治さんにご執筆いただきました。とても素晴らしい記事です。ありがとうございます。

女子ソフトボールの日米対抗2024は7月4日、名古屋市のバンテリンドームナゴヤで第1戦が行われ、日本が1-0で七回サヨナラ勝ちした。継投と堅い守りで毎回のピンチをしのぐ一方、六回まで無安打の打線が七回裏1死から中川彩音(SGホールディングス)、下山絵理(トヨタ)、代打・工藤環奈(ビックカメラ高崎)の3連打などで1点をもぎ取った。攻守とも苦しい中で「何とかする」力を見せた先勝は、若い日本の糧となるか。
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試合前のホームラン競争から、球場内がどよめいた。米国はまずメガン・グラントが5スイング中4本を打ち込む。さらにジョセリン・アロの打球は、5本ともフェンスを超えた。
オクラホマ大時代に4年間でNCAA新記録の122本塁打を記録した25歳。昨年はワールドカップ(W杯)グループステージ代表にもなったが、この後の7月15日から行われるW杯ファイナルステージ(イタリア)代表には選ばれず、今大会のメンバーとして初来日した。
日本の中溝優生(デンソー)と須藤志歩(豊田自動織機)は2本ずつにとどまり、改めて米国打者のパワーを見せつけられて始まった第1戦。宇津木麗華監督は「愛知シフト」で先発メンバーを組んだ。
1番・石川恭子(トヨタ)から9番・伊波菜々(同)と投手・後藤希友(同)まで10人のうち9人がトヨタ、デンソー、豊田自動織機の選手で、3番・中川も22年まで豊田自動織機にいた。ジャパンカップがない今、国内で唯一の国際大会とあって、ニトリJDリーグとはまた別に、日の丸をつけた地元の選手を見に来たファンに応えなければならない。
過去2年に来日した選手も多く、対策を立てて臨んだ日本バッテリーは、立ち上がりから後藤が丁寧にコースを突く。だが、先頭のスカイラー・ウォーレスへの死球などで2死一、三塁のピンチを迎えた。ここはグラントを見逃し三振に封じたが、その後も日本は毎回走者を出し、五回以外は得点圏に背負うことになる。
四回からは山下千世(豊田自動織機)が登板した。昨年も投げており、宇津木監督は「アメリカの打者が(山下を)好きではないのが分かっていたから」という。本人は見るからに緊張していて2死球などで1死一、二塁としたが、懸命に後続を断った。
五回の先頭打者を内野安打で出すと、今度は三輪さくら(シオノギ)につないだ。アロの打球が失速して二塁ライナーとなり、一塁走者が戻れず併殺。4番ジョセリン・エリクソンの一塁ライナーを下山が好捕して、ここもしのいだ。
三輪は昨年の経験とデータを基に準備して臨んだという。左打者の長打力を特に警戒して投げたが、「背の高いバッターが多いので、そこは投げやすかった」とも話した。六回は先頭打者を四球で出したが、落ち着いて後続を封じる。
七回は昨年のJDリーグで頭角を表した左腕、鹿野愛音(タカギ北九州)が登板。1死からウォーレスの二塁打などで2死三塁となったところで、宇津木監督は再び後藤をマウンドへ送った。
W杯ファイナルでは、勝ち進んでいく過程で三輪か坂本美桜(日立)から後藤への継投も考えられる。上野由岐子(ビックカメラ高崎)が控えているとはいえ、全て上野に頼るわけにいかない。
後藤は「継投の順番が決まっていなかったけど、準備はしていた。ここで打たれたら意味がないと思って」登板したという。3番アロを空振り三振に仕留め、会心の表情でベンチへ駆け戻った。
ホームラン競争で観客の度肝を抜いたアロだが、試合では4打数無安打3三振。初来日の気負いなのか構えも硬いアロを、投手陣がタイミングを外して翻弄し、打線を切ったのが大きい。ただ、後藤は「結果、三振でよかったけど、その前のファウルは危なかった」と警戒も忘れなかった。
そうして守りで踏ん張る半面、打線は六回まで失策の走者が1人出ただけだった。米国の先発ケリー・マックスウェルは左の変化球投手で、22年の日米対抗では2試合6回18打数1安打と抑えられている。
この日も「日本選手と同じくらいの身長で低めのライズボールがよくて、低い球は少し抜いた球なのに大振りしすぎていた」と宇津木監督。ローライズはバットの芯を外れたフライになりやすい。「逆方向へ打てと言ったのに、なかなか修正できなかった」
スラップショットやセーフティバントを試みた打者もいたが、当たらない。当たってもバットが負けた。
防戦一方の展開が続き、延長タイブレークに入らなければ勝機はないかと思われた七回1死。ようやく打撃が変わった。中川が右中間寄りの右前安打で出ると、下山がゴロでセンターへ打ち返す。初めて日本の攻撃でスタンドが沸いた。
ここで5番・須藤に代えて宇津木監督は工藤を打席に送る。「愛知シフト」でなければ先発させたい工藤の勝負強さに加え、相手が三振を取りたい場面で「工藤は三振がないから」。うってつけの代打になった。
「とにかく三振しないことを頭に入れて」打席に入った工藤が粘る間に、相手のバッテリーミス(記録は暴投)が出て1死二、三塁。フルカウントでも米国ベンチは満塁策を取らず、9球目をたたいた打球が二塁内野安打となる。中川がガッツポーズをしながらサヨナラの本塁へ滑り込んだ。「ランナーが三塁に行ったので、どんな形でもいいからホームに還したかった」と工藤。
スポーツに限らず、物事は思い通りにいかない方が圧倒的に多い。その時に、泥臭くても「何とかする」ことができるか。前日、宇津木監督が日本の現状を「この投手なら抑えてくれる、この打者なら打ってくれるんじゃないかというスターがいない。そういうスターを4、5人育てなければ」と話したのも、いつも華々しく活躍する選手ではなく、厳しい時こそ何とかしてくれる、勝利への扉をこじ開けてくれる選手を望んでのこと。
その意味で、守ってはみんなで何とか0点で切り抜け、打っては宇津木監督が得点源と期待する打者3人が何とかした1勝は、手応えになっただろう。
ただ、直後に開かれるW杯ファイナル、さらに28年五輪までの道のりを考えた時、現在の日米の力関係も見えた試合だった。米国はW杯ファイナルに出ないメンバーで来日した。まだ時差ボケもあったはず。そのチームに対し、この日ベンチ入りした17人のうち10人がファイナル代表の日本は、土壇場まで苦しめられた。
この日ベンチを外れた坂本、上野両投手に坂本結愛(戸田中央)、塚本蛍(ホンダ)、唐牛彩名(日立)、藤本麗(ビックカメラ高崎)も加わる第2戦(6日、静岡県富士宮市の富士山スタジアム)、第3戦(8日、横浜スタジアム)では、米国のトップ代表と戦える材料をどれだけつかめるか。多くの課題の中にも、期待を抱かせる第1戦だった。(記:若林哲治)
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