日本連勝、富士山が見た勝股美咲の炎と打線の意思統一 日米対抗2024第2戦

女子ソフトボールの日米対抗2024第2戦は静岡県富士宮市の富士山スタジアムで行われ、日本が9-5で勝って第1戦に続き連勝した。5-5の同点で迎えた四回裏1死一、二塁で登板した勝股美咲(ビックカメラ高崎)が、闘志のこもった投球で七回まで2安打無失点に抑え、この間に打線が連打あり足ありの攻撃で米国投手陣を攻略した。最終第3戦は8日19時から横浜スタジアムで行われる。

◇一番得意な球を信じて
四回裏、2番手の山下千世(豊田自動織機)が1死二塁から四球を出して4番のジョセリン・エリクソンを迎えると、宇津木麗華監督は勝股につないだ。日本が胸のすくような攻撃で2点を挙げて追いついた直後だけに、流れを再び渡したくない。勝股はエリクソンに対し、低めのチェンジアップをボールにするくらい慎重に使った後、高めいっぱいのライズボールを振らせて三振に取る。続くエリン・コッフォルも同じように三ゴロで打ち取った。「すごく緊張していたけど、しっかり抑えたら野手も絶対逆転してくれると思って投げました」という。
その通り、打線が五回表に1点を勝ち越すと、その裏は三塁手・炭谷遥香(ビックカメラ高崎)の好守で1死を取った後、四球で出した走者の二盗を捕手・切石結女(トヨタ)が刺した。バックももり立てて3人で終える。打線がさらに2点を加えてくれた後の六回裏は、1死から1安打1失策で迎えた一、二塁のピンチでメガン・グラント、エリクソンを2者連続3球三振に切って取る。左打者の外角ぎりぎりへ、自信を持って投げ込む気迫の投球だった。
そして七回裏も先頭のコッフォルを三振に仕留めた後、ケンジー・ハンセンの右中間への強烈な打球を、右翼手の藤本麗(ビックカメラ高崎)が背走してつかむ。ヴァレリー・ケイグルに中前打を許した後も、落ち着いてベイリー・クリングラーを中飛に打ち取り、投げ切った。ヒロインインタビューでは「自分の一番得意なライズボールと切石選手の配球を信じて、バックも守ってくれるので、ただ自分の球を信じて投げて、良かったと思います」と話した勝股。いつものようにはにかみながらも、充足感が漂っていた。

◇低めを警戒した切石
もともと粘って抑えるのが持ち味。特にこの日は走者が出るとストライクが先行し、腕が良く振れた。切石は「全部良かったです。球も走っていたし、ライズの回転も良かった。とても集中していたと思います」と振り返った。
長距離打者はローボールヒッターが多い。この日はフェンスまでの距離が第1戦より3メートル長い70メートル。試合開始当初は逆風だったこともあり、米国の打者は低い球をライナーで打ち返すような打撃だった。一回に先頭打者スカイラー・ウォーレスが坂本実桜(日立)に見舞った一発は、低い弾道でバックスクリーンを直撃した。
切石は「アメリカの打者は腕も長いので、外角低めでも間違うとやられる」と話し、特に強化合宿で宇津木監督に言われてきた、チェンジアップの使い方に神経を使った。

◇七回裏、勝股から聞こえた決意
勝股は岐阜・多治見西高時代の2017年に日本代表入りして7年になるが、気持ちの優しさが出てしまう場面が目立ち、殻を破れずに来た。東京五輪では上野由岐子、藤田倭(ともにビックカメラ高崎)に続く3人目の座を1学年下の後藤希友(トヨタ)に譲り、今年は7月15日からのワールドカップ(W杯)ファイナル代表16人に入れなかった。ビックカメラ高崎でも濱村ゆかりと並び立つところまでにはいかない。そして今季は、中国からウエイ・ユ チェンが加入し2年目の伊東杏珠もいる。
勝股に期するものがないはずはない。この日はグラウンドでのヒロインインタビューだけで、囲み取材が設定されず、バス乗車前の「ゲリラ取材」も機を逸してしまったので、その気持ちを聞けなかった。尋ねても、きっと先輩の濱村と同じで、そうしたことをはっきり言わないタイプだと思う。
そんな勝股を二塁の守備位置で見守り、五回に勝ち越し二塁打を放った川畑瞳(デンソー)が言った。「(きょうの投球は)良かったです。勝股が若い時からずっと一緒にやってきたので、頑張ってほしいという気持ちがすごくあります」。同じことを思う人はたくさんいる。
そして、本人の短い言葉もあった。七回裏の守備に就く時、ブルペンからカメラマンエリアの前を通りかかった勝股が、「ヨシ!」と力強く自分を鼓舞したのだ。マウンドへ向かう勝股の先には富士山。あいにくうっすらと雲に隠れていたが、雲の向こうからでも、富士山は勝股の秘めた炎を見ていた。富士宮で生まれ育った私には分かる。

◇上野の球を打ち込んだ打撃陣
さて、第1戦で六回まで無安打だった打者たちは、前日にみっちり打ち込んだという。宇津木監督によると「上野が徹して投げてくれた」。選手たちに徹底したのは、大振りせずにしっかりとらえること。長打力の必要性は変わらないが、外国人投手相手に振り回しては単打も出ない。川畑は「力対力では勝てない。しっかりミートして打つように言われました」という。
その成果か、一回から先頭・大川茉由(ホンダ)が11球粘って歩くと、唐牛彩名(日立)と工藤環奈(ビックカメラ高崎)の連続内野安打、さらに塚本蛍(ホンダ)の犠飛で2点を先行する。効率的な得点だった。

◇藤本、中溝らの足攻も
二回には「足攻」が始まる。2死から切石が四球。臨時代走の藤本がすかさず二盗を決めると、大川の左前打でゆうゆう還った。臨時代走はその前の展開によって誰になるか決まる。運よく俊足の選手になるケースは少なくないが、ここは絵に描いたように生きた。
逆転を許した後の四回には、安打で出た川畑の代走・中溝優生(デンソー)と四球の藤本が鮮やかに二盗、三盗、重盗を決めて1点。さらに切石の適時打で追いつく。守備も含む藤本の足は、満員の観客にこの競技のスピード感を存分に伝えるものでもあった。
勝股の力投でさらに奮起した打者たちは、五回以降も8安打を浴びせて得点を重ねる。米国の3投手から打った計14安打のうち長打は川畑の二塁打1本だけだった。

◇苦しんだ塚本の3安打
国内試合と国際大会は違うが、今季のニトリJDリーグ前半戦は、代表の野手であまり数字が上がらなかった選手が何人かいる。塚本もその1人。何と本塁打がまだない。打率も2割4厘。打撃がおとなしくなっていた。「三振が多かったので三振しないフォームを考えてやっていて、ヒットの延長がホームランになればと考えていたけど、結果的に打率も良くなくて」
当てることが先決になり、好球も強くたたかなくなっていたが、「三振は減っているので、今度は打てる球をヒットコースにバットコントロールするように」意識しているという。この日の3安打はどれも強い打球で一、二塁間を破り、一回の犠飛もライナー性だった。

◇第3戦でさらなる収穫を
相手のメンバーがW杯ファイナルと違っても、パワフルな米国選手に対して自分たちの課題を追求して結果が出れば、確実に成長へつながる。その過程でデータを収集されても、宇津木監督は「先輩たちはみんな、データを取られた上でやり返してきたんだから」と意に介さない。
気がかりはW杯ファイナルで期待される坂本実の投球だった。いきなりウォーレスに弾丸ライナーの1発を浴びた後、力のある球がコースに決まるなど立ち直りかけたと見えたが、2巡目に入って死球で崩れた。切石と呼吸が合わない場面もあり、打者14人に4安打3死球5失点と、苦い代表初登板になった。第3戦でも登板機会があるなら、切り替えと修正の跡を見せてイタリアへ向かいたい。
ともあれ、投げては第1戦の4投手とこの日の勝股が踏ん張り、野手は手堅い守備と打撃の反発力を見せて連勝した日本。第3戦でさらに収穫を得て締めくくれるか。(記:若林哲治

Photo:Yasuhiro Fujita