坂井寛子&JSリーグが能登へ災害ボランティア 日本女子ソフトボールリーグ開幕戦と復興支援

ボランティア作業終了後全員で能登ポーズ

4/21(月)重要文化的景観に指定されている輪島市上大沢町で女子ソフトボール選手による災害ボランティア活動が行われました。

主催は、石川県出身の北京五輪金メダリスト坂井寛子さん。約120名の日本女子ソフトボールリーグ(JSリーグ)の選手を連れて泥のかき出しなどの作業を行いました。

この地区は行政の対応も遅れており、ボランティアもまだ1人も入っていないエリアです。電気も水道も復旧しておらず、約20世帯の住人は今もなお車で約30分ほどの仮設住宅に居住しています。

輪島市は、昨年1/1に震度7を計測する地震があり、さらに9/21には豪雨による土砂崩れや床上浸水などの水害被害を受けました。

能登復興応援企画3本立て

JSリーグは、4/19,20に金沢市で開幕を迎えました。今年4年目となる金沢開催ですが、今回は坂井寛子さんの提案もあり、「がんばろう能登」企画が前日の金曜日から盛り込まれていました。金曜と土曜は、東京五輪金メダリストの渥美万奈さんも参加されました。

①4/18 金沢市近郊の保育所でASOBALL

②4/19 金メダリストと行く観戦ツアー

③4/21 輪島市ボランティア&保育所訪問

4/18(金)午前中は、金沢から車で20分程の内灘町にある「向栗崎保育所」へ坂井寛子さん、東京オリンピック金メダリストの渥美万奈さん、そしてJSリーグの選手10名が訪問し、幼児向けの野球・ソフトボール「ASOBALL(あそぼーる)」を行いました。

夕方からは、JSリーグ開幕発表会見が「いしかわ総合スポーツセンター」で行われ、ゲストに坂井寛子さん渥美万奈さんも出演しました。

JSリーグの会見は選手達自らが会場準備から行います。全チームのキャプテンが参加しチームのPRと今年のJSリーグのイベントについて紹介されました。

配信のアーカイブは、「日本女子ソフトリーグ」の Instagramアカウントで視聴できます。

開幕発表会見

そして、開幕初日となる4/19(土)は、「金メダリストと行くJSL観戦ツアー」で、輪島の子供達を坂井寛子さん渥美万奈さんがバスツアーで連れてきてくれました。輪島から金沢は約2時間半かかります。その間、バスの中では、メダリストから子供達にクイズが出されたり、実際に金メダルに触れたり、とソフトボールファンからしたらとても羨ましいバスツアーでした。

会場に着いてからは、試合を終えた選手達も手伝い、第二試合の始球式、選手と一緒に試合観戦、ソフトボール体験などをし、またJSリーグから子供達へランチ券のプレゼントもあり、一緒にキッチンカーへ行って買い物をする姿も見られました。

子供達は帰りのバスの中も寝落ちすることはなく、興奮した様子で「次はいつ会える?」などと次回を楽しみにしている様子だったとのことです。

バスツアー子供達の始球式後記念ショット

雨の第三試合

開幕2日目は、能登企画はありませんでしたが、悪天候の中試合が行われました。

天気予報から15時頃から降り出しそうとのことで、15分早めて9:45から第一試合が開始されました。

しかし、熱戦が繰り広げられ試合が長引き、第三試合は本来の予定通りの15:00スタートとなりました。

第二試合の最終回から降り出した雨、第三試合が始まる頃は大降りとなっていました。

もし順延になったら、翌日の能登へのボランティア活動は中止になります。

そのため、強行突破で土砂降りの中試合が行われました。

試合は2会場共2時間超えの熱戦で、終了したのは約17時半でした。

選手全員ずぶ濡れで、グランドはドロドロ、しかも気温も低く、また薄暗くなってきた第三試合。

かなり危険もあったかと思いますが、能登へ行くために全員でやり切りました。

大雨の中試合の大和電機

ボランティア当日朝

前日の雨の中の試合をやり切り、無事に当日を迎えました。
各チーム、朝6時に金沢を出発し、集合場所の輪島市役所浦上公民館に集まりました。

現地へは大型バスが入れないとのことで、各チームマイクロバスをレンタルしたり乗用車を活用したりと工夫をされていました。

昨日の疲れは全く見せず、選手皆とても元気でした。
誰1人、しんどいとかかったるいとか言わず、むしろワクワクしている様子でした。

しかし、坂井さんや災害支援団体の方から現地の様子について話を聞くとみな、キリッとした表情となり、それぞれが思うことがあったかと思います。

想像以上に復旧が遅れている現実、テレビなどで取り上げられなくなり正しい情報が得られていないこと、そして、坂井さんからは、門前についての話がありました。門前高校と言えばソフトボールの古豪チーム。ソフトボールに関わる人なら誰もが知っている学校です。

ソフトボールの街門前をソフトボールの力で元気にして欲しい

という坂井さんの言葉は、とても説得力のある言葉であり、選手一人一人の胸に刻まれたことでしょう。

ボランティア朝思いを語る坂井寛子さん

坂井さんの話を真剣に聞く選手

重要文化的景観の街 上大沢

集合場所から、一部車を乗り合いなどして、作業現場である「上大沢」へ移動しました。

そこまで車で約30分でしたが、道路の陥没や崖くずれ、折れた電柱などを目の当たりにしました。

重要文化的景観の街に指定されているこの地域はその景観をも地震や水害で失われてしまいました。

しかし山には桜が咲き、透き通るような川と青く輝く海は自然の力強さを感じました。

その美しい海にはかつてはアワビやサザエやウニがたくさんいたとのことですが、地震による隆起で海藻が生えなくなりだいぶ減っているとのことです。

お墓まわり

今回、最初に選手達が作業を依頼された箇所はお墓周りです。

上大沢地区20世帯のうち、現在帰ってくる意志のある世帯は7世帯であり半数以上の住人がこの地に戻ることを諦めています。

しかし、お墓参りだけでも帰ってきて欲しいという願いを込めて、まずはお墓周りをきれいにしたいとのことでした。

月日が経過し、土砂であった土はすっかり固まり、草や根が生え、元々土の地面だったようにも見えました。

そこをスコップで掘り出すことで、石の柵が見えてきました。

また、お墓前の水路であっただろう所も泥水が溜まり、流れもない状態でしたが、そこの泥も掻き出しました。中には根が張ってしまった土が水路の壁にこびり付きそこを剥がすのに大変苦労をしていました。

途中、蛇が出てくるというハプニングもありましたが、蛇も住み着くくらいの泥の量だったとも言えるでしょう。

住居と水路

住居の周りには水路がたくさんありました。雪国だからでしょうか。大きな水路、小さな水路が水路の機能を果たせないくらいの泥に埋もれていました。家と家の間にある水路や、家と山の境目などの泥の掻き出しも行いました。

玄関が傾いている家の中に入らせていただきましたが、台所の床の中心部が盛り上がっていたり、居間の床が剥がれて地面が剥き出しになっていたり、壁が崩れていたり、外から見るよりもひどい状態でした。

選手の声

作業終了後、数名の選手に感想をお聞きしました。

どの選手も現状のひどさに驚いていました。「報道されない=もう復興している」と思い込んでいた私たち。

VONDS市原の千葉キャプテンは、「最近ニュースでもやらなくなって今の現状がどうなっているかわからなかったが、思ったよりひどい状況でした」「今日は100人体制で来たけれど、ほんの一区画しかできていません。また機会があれば全員で来たいです」

Citrine Ichinomiyaの船山キャプテンは、「私たちの力は微力ですが、輪島の皆さんが少しでも笑顔になって欲しいと思い全力で頑張りました。」

VONDS市原 千葉キャプテン

花王 鈴木キャプテンとCitrine 船山キャプテン

最後に

今回作業をした上大沢地区、お家もお墓もとても立派なものでした。アワビやサザエが獲れる海とお米や農産物がよく育つ土壌と自然の恵みで豊かな暮らしをしていた人々に襲った悲劇。1月の大地震と9月の大雨による水害と。皮肉にも自然による災害で住む場所を奪われた人たち。それでも「この海があるからまたここに戻ってきたい」と言う住人の方の言葉が心に響きました。

海を愛する漁業組合長 中村さん

選手達は、本業であるリーグ開幕戦の試合の前日から保育所訪問や開幕発表会見などを行い、試合当日も能登の子供達と触れ合い、そしてリーグ明けの翌日にこのような災害ボランティア活動を行いました。

今回のボランティア活動はソフトボール界にとしては大きな試みだったと思います。しかしなかなかやる気だけでできることではありません。坂井寛子さん災害支援団体の方はじめ多くの方の事前準備、お膳立てがあって実行できたことであり、さらにはこれだけハードなスケジュールにしないと実現できなかったことかと思います。

活動予算が限られているJSリーグの各チーム。基本、試合翌日から業務があるチームばかりで、今回その業務を休めずボランティアに参加できないチームや選手もいました。

災害支援団体SHHDS OF HOPE なほさん

限られた条件の中でもこのような大きな取り組みができたのは何よりも全チームの監督が協力的であり、会社への交渉など最大限の努力をされたことにあります。そして常に前向きで新たな挑戦をしようとするJSリーグ

今回も当初の依頼は保育所訪問のみでしたが、監督会議でリーグ自ら災害ボランティアを志願したとのことです。当日は監督、コーチ、マネージャー、そして部長も泥かき作業に参加しました。そのような姿勢が選手を動かしているのでしょう。

作業現場に出現した蛇を遠くへ逃した大國監督

冒頭で坂井寛子さんが、「私が現役だったらきっと試合の翌日になんでそんなことしなくちゃいけないんだろうって思ったと思う」と言ってましたが、来る前はしんどいと思っていたなどのネガティブ発言をする選手は1人もいませんでした。

リーグ2日目の第三試合、土砂降りの中、試合をした選手達も、晴々とした表情で朝の集合場所に来ていたのが印象的です。

そんなJSリーグの選手達をこれからも心から応援したいと思います。

そして、能登の現状を知った今、今回だけで終わらず、発信なども含めてできる限りの支援を続けていきたいと思います。

災害ボランティア当日の様子はこちら!